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安心が選択を支えた看取り【看取りの報告書・CAさまのこと】

かわべクリニックでは、患者さまが最期の時間をどのように過ごされたかを「看取りの報告書」としてまとめています。担当看護師の記録とともに紹介することで、ご自身の人生の最終段階に考える機会にしていただけたら幸いです。

自分のことが自分でできる間は、できるだけ自分の家で

病院への看取りの報告書

CAさまについて、退院後の様子から順を追ってご報告させていただきます。コロナ禍の影響で、CAさまは入院中、ご家族とお会いできない日々を過ごされました。そのため、退院後に娘さま、お孫さま、妹さまと再会され、ご自宅で過ごせる喜びを強く感じられている様子でした。在宅療養の再開は、ご本人にとって大きな安心と喜びに満ちたものだったと受け止めています。

退院後、CTの結果をもとに肺がんの進行と今後の食欲低下や臥床傾向の可能性をお伝えしたところ、CAさまは「自分のことが自分でできる間は、できるだけ家にいたい」と明確に意思を示されました。

一方で娘さまは「できる限り家で看取りたい」というお気持ちをお持ちになりながらも、お母さまの状態が変化していく中で「このままで良いのか」と悩んでいる場面もありました。私たちも、母娘の関係性を大切にしながら、在宅医療をどこまで続けるのが最善か、話し合い、模索しながら支援を続けていました。

退院から2ヶ月ほど経過した頃の訪問時にはベッドの上で過ごすことが中心の生活となってきたため、入院の相談を持ちかけました。しかし翌日には傾眠が進行。娘さまは「やっぱり家で看てあげたい」と決意を固められ、家族が心をひとつにできた中で、訪問から3日後の朝にご自宅にいたまま、安らかに息を引き取られました。

自宅で過ごしたいというご本人の意向を受け、迷いや悩みがありながらも家族の決意が揺るがなかったのは「いざというときには入院できる場所がある」という安心感があったためだと感じています。今回は再入院することはありませんでしたが、いつでも受け入れてくれる貴院の存在感には、私たちも、ご家族たちも感謝しています。

このたびはご紹介誠にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

在宅療養とバックアップ体制が支えた安心

CAさまのケースは「在宅療養を続けながら、万一の際には入院できるバックアップ体制がある」という安心感に支えられていました。この「安心のバックアップ」は、ご本人とご家族が在宅看取りを選択する際、精神的には大きなサポートとなります。

揺れ動く家族の気持ちに寄り添う

「できる限り家で看取りたい」と願いながらも「このままで良いのか」と悩まれた娘さま。この葛藤は、在宅看取りを考える多くのご家族に共通するものです。私たち看護師の役割は、その揺れ動く気持ちを受け止め、寄り添うことです。「正解はひとつではありません」「どちらを選んでも私たちが支えます」という姿勢を示すことで、ご家族は自分たちの選択に自信を持つことができるのです。

選択肢があるという心の余裕

「自分でできる間は家にいたい」とご本人が意思を示された後、娘さまの迷いと葛藤を支えたのは「常に再入院という選択肢がある」という安心感でした。再入院の提案をしたのも、それは「今すぐ入院しなければならない」「すべきだ」という圧力ではありません。むしろ「選択しようと思えば、可能である」という選択肢が複数あることによって安心感を感じられたはずです。この安心感があったからこそ、ご家族は最期までご本人の意思を第一に考えることができ、最終的に「やっぱり家で看てあげたい」という在宅での看取り決断を支えたと言えるのではないでしょうか。

日本の在宅医療の現実と可能性

厚生労働省の第8次医療計画指針では、在宅療養を支える医療体制として次の4つの機能を整備することを明記されています。

この4機能です。特に「急変時に入院できる受け皿の確保」は、多職種連携によるバックアップ体制の中心となります。

独居がん終末期患者を対象とした 在宅緩和ケアシステム構築に関する研究 (首都大学東京 都市環境科学研究科 米澤純子、2015年)

CAさまのケースは、まさにこのバックアップ体制が現場で機能した好例と言えるでしょう。

日本在宅医療連合学会誌(2024年)に掲載された調査では、退院支援は病棟看護師が主体となり、多職種連携をベースに患者・家族の在宅生活を整える看護行為であるとされています。地域の特性や個人の状況に応じた高度な退院支援は、在宅療養継続のカギとなると報告されています。

また日本では自宅で最期を迎える割合が低く、看取り率の推進に関する調査では、日本では在宅死(自宅で最期を迎える割合)が非常に低く、患者や家族が「生活や医療体制への不安」を理由に在宅療養が継続できないケースが多いとされています(日本在宅ケア学会誌)。

しかし24時間対応・急変時対応が可能な医療・看護体制が整備されれば在宅療養は継続できると言い換えることもできます。地域に在宅療養支援診療所が整備されたり、訪問薬局や深夜対応体制の取り組まれたりすることで、自宅死の割合が上昇した地域もあります。地域全体で生活支援と医療体制を整備することが、選択肢の実現に直結しています。日本在宅医療連合学会公式サイト

まとめ

CAさまのように、在宅療養を考える多くの方にとっては「選択肢があるという心の余裕」の担保が重要です。私たち医療従事者が、在宅支援とバックアップ体制を両立させることで、その余裕を支える大きな役割を果たせると考えています。

東大阪プロジェクトの一員として、地域包括ケアを推進するためには、医療者・介護職・行政はもちろん、福祉や支援制度、さらにはご家族も含めたバックアップ体制を整えていく必要があります。

「自分や家族が、いつでも安心して相談できる」そんな地域であることが、最期を迎える方々の希望を支える土台となります。困ったときは一人で悩まず、地域包括支援センターやかかりつけ医にご相談ください。まち全体で支え合う仕組みづくりを、ぜひ一緒に進めていきましょう。

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