ご家族の言葉が私たち医療者の力になる【グリーフカードに込めた想い・第1回】
ケアが必要となるのは患者さんご本人の身体や痛みについてだけではありません。大切な人を失ったご家族の喪失感が長く続くことは決して少なくないのです。かわべクリニックでは、こうしたご家族に対するグリーフケアにも力を入れています。

私たちは、看取りのあとも“つながりの医療”を大切にしてきました。その一つの表れが、グリーフカードというお葉書です。大切な方を見送られた後のご家族に向けて、旅立ちから49日、そして1年後を目安にお送りしています。
「悲しみの中にいても、あなたはひとりではありません」という想いを込めて、医師や看護師たちが心を込めて手書きで綴ることにしています。
お送りしたグリーフカードに対して、先日あるご家族から次のようなお返事をいただきました。
静かにつづられた言葉の中に、確かに“生きる力”があることが私たちにも伝わってきました。
悲しみの只中にいても「見守られている」「だから自分も前を向こう」という安心感や密かな決意が、この小さくて短い手紙の中に息づいているのです。

ご本人、そしてご家族と初めてお会いしたのは5年前のこと。
在宅医療クリニックでは、終末期に近づいてから出会う方たちが少ないのですが、こちらのご家族とは長いお付き合いになりました。
長い年月をかけて、病気と向き合いながらご自宅での療養を続けるのを、陰ながらサポートさせていただきました。
晩年になると、左反回神経麻痺の影響で声が出にくくなったものの、それでもさいごまで穏やかに、そして懸命に言葉を紡がれていたことを、私たちは今でもはっきりと覚えています。
「声が出なくても、想いは伝わるからね」そう言って笑っておられた姿は、とても前向きで、サポートしているはずの私たちが、勇気づけられるほどでした。
まっすぐで誠実、そして周りを照らすような穏やかさを持つ方でした。
この方は、生涯、教育に情熱を注がれ、講師として多くの人を導かれました。ワープロで細かな資料を作り「教えるということは、誰かの未来を信じることだ」と語っておられた姿と言葉もまた印象に残っています。
ご自宅で迎えられたさいごの時間、奥さまがそっと手を握りながら「ありがとうね」と声をかけられたとき、その表情は本当に安らかで、“生ききる”という言葉の意味を静かに教えてくださったように思います。

悲しみは長く続くものです。ただし時間とともに形を変えていくものでもあります。ご家族などとともに旅立った方を思い出すたび、懐かしむたびに、寂しさや悲しさがよみがえるとともに、心の中にあたたかい光が灯るように感じます。
そんなかすかな光を灯すことも、グリーフカードの役割のようにも感じています。少しずつ、でも確実に、悲しみが光に包まれ、温かさを増すのなら。1枚1枚のカードに思いを込めて、私たちは、これからも“別れの先にも寄り添う医療”を大切にしていきたいと思います。
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