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介入から4日間の話し合いで教わったこと【看取りの報告書・CCさまのこと】

かわべクリニックでは、患者さまが最期の時間をどのように過ごされたかを「看取りの報告書」としてまとめています。担当看護師の記録とともに紹介することで、ご自身の人生の最終段階に考える機会にしていただけたら幸いです。

話し合ったから納得のさいごを迎えることができた

病院への看取りの報告書

いつも大変お世話になっております。貴院から退院されたCC様につきまして、在宅療養およびお看取りの経過をご報告申し上げます。

当クリニックでの受け入れに先立ち、長男様・次女様、入居予定施設の管理者、訪問看護師を交え、合同面談を実施しました。これまでの人生の歩みや、ここ最近の認知機能・体調の変化について詳細にお話を伺いました。

ご家族の思いとして、次女様は「施設に入所し、食事介助を受けながら、再び口から食べられるようになってほしい。もし食べられなくなったとしても、それは自然な経過として受け入れたい」と話していました。一方、長男様は「食べられないということが本当に起こるのか。何とかならないのか」と、強い期待を抱かれており、きょうだい間で受け止め方に差がみられていました。

そのため病の経過や身体機能の変化について説明し、ご家族内で十分に話し合っていただいた上で、退院を迎えることとなりました。

退院当日、身だしなみに厳しかったCC様の気持ちを大切にし、次女様は前日に美容室を訪れ「お母ちゃん、わかる?」と声をかけながら手を握り、視線を合わせようとされていました。長男様も、訪問看護師に「少し飲ませてみてもいいですか」「トロミはこれくらいですか」と確認しながら、懸命にケアをしていました。

しかし、入院期間を経て、ADLの低下のみならず、全身状態・身体機能の低下は顕著であり、口腔内環境も良好とは言い難い状態でした。そのため、早期に不顕性肺炎(睡眠中など唾液や口腔内の雑菌が気管へ流れ込む誤嚥が原因)を発症する可能性が高いと考えられました。

実際に、退院から約12時間後に39℃の発熱。食事摂取を目指す上で口腔ケアが不可欠であったため、歯科へ往診を依頼し快く引き受けてくださいました。抵抗を示していたCC様に対し「指、噛まないでね」と優しく声をかけながら、約2時間をかけて丁寧な口腔ケアを実施していただきました。次第に表情も和らぎ、最終的にはぶどうジュースを数口摂取され、そのご様子にご家族も大変喜ばれていました。

そして退院から4日が経過し、ご家族に見守られながら安らかに永眠されました。長男様は涙ながらに「最期まで母のそばにいられたこと、そして、食べることが大好きだった母がジュースを飲めたこと、愛情のあるケアをしていただけたことに心から感謝しています。後悔はありません」と話してくださいました。

今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

在宅か施設かを悩んだ末に

CC様は80代後半で、認知症と糖尿病、下肢廃用症候群を有していました。2ヶ月前より食事摂取量と活気の低下が目立ち始め、半月後には食事を拒否する場面もみられるようになりました。
発熱や脱水を契機に入院し、糖尿病性ケトアシドーシスとして一時的に改善したものの、その後再び内服・経口摂取が困難となり、点滴による療養が続いていました。認知症の進行により、点滴の自己抜去が頻回にみられ、身体抑制を必要とする状況となったことから、療養型病院への転院か在宅療養かという選択を迫られ、ご家族は悩み抜いた末に「自宅・施設での療養」を選択され、私たちが介入することになったという経緯があります。

初診時に見えていた医学的な現実

初診時、全身状態はすでに厳しく、口腔内乾燥と汚染、下肢浮腫、尿量の低下がみられていました。認知症が進行すると「食べる」という行為そのものを理解・遂行する力が低下し、嚥下機能の低下や口腔環境の悪化をきたしやすくなります。これは老衰の自然な経過の一部でもあり、食べられなくなること=異常ではなく「身体のエネルギーが静かに終わりへ向かっているサイン」である場合も少なくありません。

この時点で、誤嚥性肺炎や感染症をきたすリスクは高く、予後は「数日から1週間程度」と判断せざるを得ない状態でした。

娘としての思い、息子としての思い

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の場では、同じ家族であっても、思いの違いがはっきりと表れていました。

次女様は無理な延命はせず、尊厳を大切にしたいと言い、一方の長男様は「食べられなくても、点滴をしてでも命をつなぐべきでは」と母を失う不安と、これまで十分に関われなかった後悔をにじませながら話されました。

どちらも間違いではありません。大切な人を前にしたとき、人はそれぞれの立場と人生経験から、異なる答えを探します。

「話し合う」ということの意味

医療者として私たちが行ったのは、「正解を提示すること」ではなく、

これらの見解をできるだけ誠実に、繰り返し共有することでした。

そのうえで、ご家族自身が「どう見送りたいのか」を言葉にできるよう、時間をかけて話し合っていただきました。

「兄妹関係はあまり良くなかったけれど、母が最後に、兄妹で話す時間をくれたのだと思います」後日、次女さんがそう語ってくださった言葉が、この症例のすべてを表しているように感じました。

人の最期は避けられないけれども選ぶことができる

介入をはじめてから4日後、CC様は静かに息を引き取られました。

呼吸が止まり、心音が消え、穏やかな表情で横たわる姿は、「何かを奪われた最期」ではなく、十分に話し合い、選び取った最期のように思えました。

その後、ご家族たちは、次のように振り返りました。「厳しい母でした。でも、一生懸命働いて、私たちを育ててくれました。穏やかな顔を見て、ここに連れて帰ってきてよかったと思えました。後悔なく看取ることができました。」

人の最期は、治療だけで決まるものではありません。そして誰もが避けることはできません。

しかし話し合いによって、家族の関係を整え、後悔を減らし、看取りを支える力になることがあります。

最期のあり方は、選べることも多いのです。

 

医療者が準備して実行できたこと

私たち医療者も「もうできることはない」と決めつけていたわけではありません。無理な延命はしないけれども、希望を簡単に手放さないのも在宅医療の務めです。

「もし、ほんの少しでも口から味わえる瞬間があるなら」その可能性を支えるために、私たちができる準備がありました。

今回、再び食べることを支える第一歩は、清潔で、痛みや不快感の少ない口腔環境をつくることでした。

そのため、歯科衛生士は、認知症の影響で強い抵抗がある中で、声かけを工夫し、表情を読み取り、約2時間をかけて丁寧な口腔ケアを行いました。「食べることが好きだった」という願いをかなえたい想いと「その人らしく最期まで生きる」ことをサポートする決意のこもった2時間だったことでしょう。

わずかながら、口から飲み物を味わうことができました。その姿を見て、ご家族がほっと表情を緩められたことは、今も強く印象に残っています。

改めて「豊かに生ききる」を支えて、看取りを迎えるには、単独の医療者だけでは困難です。看護師、介護職、歯科衛生士と歯科医師、そして医師が「できること」を持ち寄り、同じ方向を向ければ、関わる人の最期のひと時は、決して貧しい時間にはならないのだと思います。

一瞬でも豊かに生ききるために、ベストを尽くす仲間への感謝もこみ上げてきました。

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