苦しみを分かちあえる存在でありたい【グリーフカードに込めた想い・第5回】
かわべクリニックでは、看取りのあとも“つながりの医療”を大切にしています。旅立ちから49日、そして1年――ご家族の心に少しずつ変化が訪れるその節目に、私たちは「グリーフカード」をお送りしています。
「悲しみの中にあっても、あなたはひとりではありません。」
そんな想いを込めて、医師や看護師が一枚一枚、手書きで綴ります。
グリーフカードは、49日の時と1年の時にお送りしています。すぐにお返事をくださる方もいれば、1年経って初めて言葉を返してくださる方もいます。それぞれの時間の流れがあり、「時が解決する」という単純なものではありません。だからこそ、早い段階から心に寄り添うグリーフケアが大切だと、私たちは考えています。―― ご家族の言葉が、私たちの力になる ――

グリーフカードのお返事
Iさんのご家族から、2ヶ月後に届いたお返事をご紹介します。
先生をはじめ、クリニックの皆さまには義父の生前、大変お世話になりました。ありがとうございました。先生のアドバイスと医療センターへの入院の段取りを整えていただいたおかげで、無事に入院することができました。
結果的に15日ほどで他界することにはなりましたが、さいごは痛み止めと、24時間看護が頼りになりました。床ずれができないよう、日に何度も寝返りをうたせてくださったおかげもあり、大きな苦痛もなく、穏やかなさいごを迎えることができました。
「終末期医療」という大変なお仕事ですが、大きな病院からは見離された感じがしたところを救って頂いたように思います。温かく支えてくださったことに、深く感謝しております。本当にありがとうございました。
このお手紙を拝見したとき、深い悲しみとともに、感謝や安堵の想いが静かに伝わってくるのを感じました。「見離されたように感じていたところを救ってもらえた」という言葉には、患者さんとご家族がどれほど不安の中にいたのか、そしてその不安を包み込む“つながり”がどれほど大きな意味を持つかが表れているように感じられます。
生前のIさんは「まだ治療を続けたい」と希望していました。生き続ける望みを捨てたくないという思いがあったのです。一方で、病院から「もうBSC(Best Supportive Care)の段階です」、すなわち積極的な治療を中断し、症状の緩和に努める方針を告げられていました。症状緩和やQOLの維持・向上も重要なことです。痛みや苦しみを和らげ、その人らしく過ごせるようサポートする緩和ケアは、多くのがん患者さんにとって必要なことでもあります。
娘さんも当初は「病院で父を診てほしい」と願っていましたが、現実には在宅療養しか選択肢がありませんでした。「本当にこのままで大丈夫なのか」という不安が大きくのしかかっていたことは、容易に想像できます。
その希望と現実のはざまで生まれた苦しみを、私たちは受け止め、そして支えました。状態の変化を見極め、必要なときに緩和ケア病院へつなぐというサポートを約束しました。これによって「この人たちは、私たちの苦しみをわかってくれる」と感じてもらえたことは間違いありません。いざという時に頼れる、相談できる、適切なアドバイスを受けられるという環境そのものが、不安の中でたしかな安心材料になったのではないかと考えています。
家でさいごを過ごすことが、必ずしも正解ではありません。本人が望む場所で、望む形で過ごせること。それが、その人らしい生ききり方だと思います。
ただ、現実に目を背けて希望だけを追うのではなく、その人とともに「いま、できること」を丁寧に考えていくこと。それこそが緩和ケアの本質であり、私たちが日々の看取りの中で大切にしていることでもあります。
苦しみを取り除くことまではできなくても、せめて「わかってくれる」「わかちあえる」と思っていただけるように。

グリーフカードは、直訳すると悲しみを思い出させる手紙のように感じられてしまうかもしれません。そうではなく、あの日、あの頃の涙や温かさ、そしてかすかでも希望を思い出す手紙だと思います。ご家族にとっては、感謝や想いを言葉にすることで、前を向くきっかけになれば。
そして私たち医療者には、あの時間をもう一度見つめることで、また新たなケアを必要とする方たちのために何か役立つことを整理する機会にもなります。
かわべクリニックは、一期一会を大切にしながら、つながる医療の実践を続けていきたいと思っています。
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