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付き合いの長さでなく、深さによって信頼は生まれる【看取りの報告書・CBさまのこと】

かわべクリニックでは、患者さまが最期の時間をどのように過ごされたかを「看取りの報告書」としてまとめています。担当看護師の記録とともに紹介することで、ご自身の人生の最終段階に考える機会にしていただけたら幸いです。

わずか10日間の関わりが教えてくれた“安心”のかたち

病院への看取りの報告書

貴院よりご紹介いただいたCBさまについてご報告させていただきます。
退院の日、安堵の表情を浮かべながらも、行き慣れたトイレへ行くにも奥さまの肩を借りねばならないほど、体力が落ちていました。呼吸も浅く、少し驚いたような眼差しを感じ取った奥さまは、小さな声で私に話されました。

「私だけで大丈夫かしら…。薬のこともわからないし、血糖測定も、インスリン注射なんてとても…」

そこで在宅診療の流れや支援体制を丁寧に説明し、その日の訪問診療を終えました。3時間後、CBさまから電話がありました。「本当に繋がるのかな?と思って…失礼しました。私は順調ですので」。

笑いながらそう言って電話を切られたその日の夜21時には、「そろそろ寝ますわ。おやすみなさい」と柔らかい声が届きました。

ところが翌朝、39℃の発熱。意識レベルはⅢ桁(眼が開かない状態)まで低下しました。緊急訪問すると、奥さまは立ち尽くし、状況を理解できずにいました。私たちはゆっくり丁寧に病状を説明し、ほどなくお姉さまも駆けつけてくださり、「どこで過ごすことがご本人にとって最善か」を、医師・訪問看護師・ケアマネージャーで話し合いました。

その時、奥さまが静かに言いました。「家と病院で、同じ治療をしてもらえるなら家を希望します。会えない方がつらい。あとは主人の力を信じます。」その言葉を聞いていたのか、痛み刺激にも反応がなかったCBさまが、奥さまの呼びかけに小さく反応されたのです。みんなで驚き、そして喜びました。

それから穏やかな時間が流れ、ご家族に見守られながら、静かに旅立たれました。奥さまは涙を浮かべながらも、こう話されました。

「とにかく一緒にいれてよかったです。元気な時は、二人で外食デートをよくしました。」

この度は、ご紹介ありがとうございました。

今後ともよろしくお願い致します。

わずか10日間の関わりでも信頼をしていただくために

在宅療養の支援は、長期に関わることだけが価値ではありません。今回のケースのようにわずか10日間でも、「本気で寄り添う姿勢」は信頼につながります。ご本人やご家族が安心して時間を過ごせるようになれば、不安は和らぎ、そして信頼が生まれます。

初動から即座に連絡が取れる体制を整え、どんな小さな不安にも応じることを約束しました。“いつでも繋がれる”という実感が、家族の間に「信じて任せたい」という信頼感を生みだしたのだと思います。

在宅看取りでは、“準備”よりも“関係”が安心をつくります。初回訪問後に、ご本人が安心を得るために電話をかけてくれました。あの一本の通話が支援体制を信じるきっかけとなったのは間違いありません。

初動の関わりが看取りの質を決める

退院直後、すなわち在宅医療が関わる初期は、家族も患者も不安が強くあらわれます。情報も整理できず、混乱しやすい時期です。

この段階での丁寧な説明とともに即応する姿勢や見守られることの安心感が、その後の療養全体の安定を大きく左右するのです。

(参考:日本看護協会「在宅移行支援に関するガイドライン」2023)

短期間の看取りにも意味がある

関わりの長さではなく、密度と信頼の深さがケアの質を左右します。

短期間であっても、家族が「自分で看取れた」と思える体験が、深いグリーフケアに繋がります。

(参考:日本緩和医療学会『家族ケアに関する提言』2022)

“報告書”は、次への希望をつなぐ記録

病院や地域の支援者に向けて“看取りの報告書”を届けることは、一人の人生がどう生ききられたかを共有し、次の在宅支援の糧とする循環を生むと信じています。

“看取りの報告書”への思いは、前回の記事でもくわしく紹介しています。

さいごまで連携するための「看取りの報告書」は“生ききる”姿を伝えてくれる

 

「もっと早く出会えていたら」

看取りを振り返るたびに、いつも私たちは思います。

「もっと早く出会えていたら、もっと支えられたかもしれない」

そしてご家族も「もっと早く出会いたかった」と口にされます。

残り時間があるということは、様々な選択肢も残されているということ。自宅に戻ることを希望しながら、在宅医療にたどりつけなかった時間を後悔される方がいるのも事実です。

しかし、その悔しさや願いを“次への希望”に変えていくことこそ、私たちの役割だと感じます。

私は「看取りの報告書」を、ただの報告ではなく、“気づきの種”として多くの人に届けたいと思っています。

誰かの最期の記録を通して、

「自分だったらどんなさいごを過ごしたいか」

「そのために、いつから、誰と動き出すべきか」

そんな問いを持つきっかけになれたらと願っています。

安心は、何によってもたらされるかを考えると、付き合う期間の長短ではなく、心が通い合う“深さ”にあるように思えます。

わずかな時間でも、心が深いところでつながれば、安心して生ききることができるのです。

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