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お互いを思い合う、だからこそ苦しい【看取りの報告書・BFさまのこと】

かわべクリニックでは、患者さまが最期の時間を過ごされたご様子を「看取りの報告書」としてまとめています。

これまでお見送りをした患者さまの「看取りの報告書」を、担当看護師の思い出とともにご紹介したいと思います。

看取りの報告書

「迷惑をかけたくない」と考える母
「迷惑などと思わないでほしい」という娘の、互いを思いやる気持ち

病院への看取り報告書

いつもお世話になっております。
貴院の緩和ケア科を受診したBFさまについて、ご報告させていただきます。

食欲低下が顕著な中でも、食にこだわりのあるBFさまのリクエストに応じて娘さまが準備し、わずかな量を摂取されていました。ご自身が、お父さまから引き継いだ電気関係の会社の経営を立て直したことや、コロナ禍になってから新たに経営を任せた息子さまのことを案じて、涙ながらにお話しされることはありました。しかし、決してご自身の病状や今後の展開については多くを語ることはありませんでした。

薬剤師である娘さまは病状を十分に理解され、自宅での看取りのために介護休暇を取得しようと計画されていました。しかし、ご本人さまには経営者としての視点から「わざわざ仕事を休んでもらってまで、あなたの世話にはなりたくない。職場の方に迷惑をかけてはいけない。身の回りのことを自分でできなくなった時には入院する」と、娘さまに対してお話しされていました。

病状が進行し、トイレに移動することも困難となり、娘さまは迷うことなく介護休暇を取得され、薬剤の管理だけでなく、慣れないオムツ交換などを看護師と共に行っていました。ご本人さまは安心した表情で、すべてを娘様に委ね、「入院をしたい」という言葉を発することなく、ご家族が見守られる中、7月9日9時30分に安らかに永眠されました。言葉数は決して多くはない母娘でしたが、自宅で過ごし、娘さまにすべてを委ねたことで、言葉以上に親子の絆を強めたのではないかと思います。

最後まで「いざという時に入院できる場所がある」ことは、ご本人やご家族の皆さま、そして私たちにとっても心強い存在としてありました。ご紹介いただきありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。

 

現代の「核家族」が看護・介護を続けるには社会からの支援が必要

近年、核家族化が進む中で、家族の在り方や生活スタイルが多様化しています。このような状況下で、怪我や病気などによる家族の介護が必要となった場合、これまでの生活スタイルは大きく変化させて適応することになります。家族には、適応した新たな生活スタイルの模索が求められ、必要に応じて社会からのさまざまなサポートが得られると心強いはずです。

新しい家族が誕生する場合も生活スタイルの変化を伴いますが、およそ1年の準備期間があります。この準備期間の内に、夫婦間や親族間の協力、話し合いなどを通して対策できます。しかし、事故や病気などの介護は、突然やってくるため家族が求められる変化も急激な場合が多いものです。限られた時間の中で、介護休暇の取得など働き方を変えたり、自宅に介護のしやすい環境を整えるなどの準備・対策が必要です。

自宅療養を選択した場合、患者さまは慣れ親しんだ自宅で過ごし、大切な家族との絆を深めながら生きることができます。支えるご家族にも、患者さまの近くにいられる安心感が得られますが、介護に必要な時間や体力、ケア力は時に、限界値を超えてしまうことも少なくありません。しかし、家族だけで支えなくてはならないのではなく、私たちは適切なサポートをし続けたいと考えています。

私たちは、すべてのサポートを直接ご提供できるわけではありませんが、「チームケア」として介護に携わるご家族さまをサポートできます

終末期医療と緩和ケア

介護のためには勤め先や地域コミュニティの理解と協力も必要

介護には、ご家族の勤務先の理解や、近隣で暮らす同じ地域の人々の協力も欠かせない場合が多くあります。

「自宅で穏やかに過ごしたい、家族と一緒に過ごしたい」と考えている方々には、次のようなサポートが得られることを知っておき、準備しておけば、「もしも」のときにスムーズに対応できるようになります。

「自宅で穏やかに」を叶える5つのポイント

  • 1. 在宅医(24時間365日対応してくれる医師)の存在
  • 2. 訪問看護師(24時間365日対応してくれる看護師)の存在
  • 3. ケアマネージャーの存在
  • 4. 緩和ケア病院と連携できているか確認
  • 5. 職場で介護休暇を何日間取得できるか確認

今回のBFさまの場合、退院される際に病院から提案されたのは上記の1〜3の準備でした。在宅訪問診療を受けながら、ご本人さまは「できる限り自宅で過ごしたい。でも、娘に迷惑はかけたくないから、下の世話になる頃には病院に行く」という考えを抱いていました。

一方で、お母さまの退院に合わせて同居をスタートした娘さまは「最期まで自宅で過ごさせてあげたい。最後に親孝行したい。母が動けなくなった時点で会社に介護休暇を申請するつもりです」と意志を明確にしていました。そして、娘さまは会社側からの理解も得て、計画されていた通り介護休暇を取得できました。

介護は時として家族に大きな負担を生じる

親子の苦しみは、お互いに思い合っているからこそ生じた苦しみでした。
介護を受ける側のなかには「迷惑をかけたくない」という思いを持つ方は少なくありませんが、現実にはご自身で身の回りのことができなくなります。それでも「頼りたい」と言わずに遠慮されてしまう。

介護者側・受ける側にできた「溝」は、介護が続いた結果、変化することもあります。介護によって、介護者にかかる身体的・精神的なストレスや負担、仕事や家庭生活などのバランスの悪化、さらに介護が長期化することによる経済的な負担の拡大など、様々な課題が副作用として生まれます。

介護を必要な場合には、在宅医や訪問看護師などのサービスや、ケアマネージャーの支援を活用して、家族の介護負担を軽減できます。誰もが必要なサポートを受けるには、社会全体でのこれら医療・介護サービスの認知度向上や、介護サービスのさらなる充実が必要とされます。

緩和ケア病院・病棟という柱の存在

心身が疲れて果てるのは、患者さま、家族さまだけでなく、私たち医療介護従事者も同じです。そんなときに頼れるのが緩和ケア病院・病棟という場所です。この存在のおかげで、今ある苦しみを乗り越える力が得られる経験を、私自身何度も体感してきました

かわべクリニックの位置する東大阪には、市立東大阪医療センター病院緩和ケア病棟があります

緩和ケア病棟の理念は「病とともにあなたらしく生きることができるように、私たちはできる限りのお手伝いをします。」です。
基本的に病状が厳しくなってきた患者さまやご家族を支え、それぞれの意思を尊重しながら、その人らしさを大切にしたケアを提供する場所。
痛みなどつらい症状を少しでも緩和し、ご家族の心のサポートも同時に行う場所。

このような存在は、患者さまだけでなく、ご家族や支援者にとって大きな支えとなります。

人生の最終段階にいる方が、どのような場所にいても「穏やかで豊かに生ききることができる」支援が、私たちには求められます。

患者さまやご家族の苦しさを和らげられるように、そして少しでも分かち合えるように。
私たち自身も、いつでも誰もが心地よく過ごせる「居場所」を提供できる存在でありたいと、強く願っています。

【今週の東大阪プロジェクト】
東大阪プロジェクトの活動の一部をご紹介させていただきます


【地域連携・緩和ケア講演会・第27 東大阪プロジェクト】
日時:令和4520日(土)18時から20時(1745分開場)
定員:オンライン 500
全国から医療や介護にかかわる職種の方はどなたさまでも参加いただけます

今回のテーマは「医療・介護者が作るバリア」
第1部:18時10分~19時
「その人らしさを支える緩和ケアと地域連携」
八尾市立病院 緩和ケアセンター部長 蔵昌宏 先生
八尾市立病院 地域連携室MSW 西麻弥 さん

第2部:19時~19時50分
「こころのバリアフリーを実現する緩和ケアと地域医療」
~気づいていますか 医療・介護者が作るバリア~
医療法人綾正会かわべクリニック 看護師 川邉綾香

【申し込み】
https://88auto.biz/higashiosaka/registp/entryform30.htm

\\こんな方の参加をお待ちしています//

・穏やかな緩和ケアを行いたいけれど、なかなか実現できない
・多職種間での情報連携が難しくもどかしい思いをしている
・私たちが取り組んでいる緩和ケアは、正しいのだろうか?

初めての方もお気軽にご参加ください。明日からのお仕事に何か役立つはずです。

緩和ケア講習会のご案内

クリックすると拡大表示されます

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