かわべクリニックが大切にしている「グリーフケア」
大切な人との別れ。亡くなる直前と直後に悲しみが襲ってくるのはもちろんですが、その先にも長く心に傷を負い、ケアを必要とされる方は少なくありません。
私たちは、終末期にある患者さんの痛みや苦しみをできるだけ取り除きたいと努力を惜しみません。やや冷たく聞こえるかもしれませんが、患者さんご本人に対する介入は、亡くなられるときにピリオドが打たれます。しかし、家族の本当の悲しみはその後にやってきます。
治療とは別に、ご家族などに必要なグリーフケアをどのように届けるのか。これもかわべクリニックのテーマです。
「グリーフケア」とは、大切な方を亡くされたご家族が、その悲しみと向き合いながら、少しずつ日常を取り戻していくための支援です。
悲嘆ケアや遺族ケアとも言い、患者さんご自身と同じく支えてこられたご家族や友人のケアが必要とされています。
私たちかわべクリニックは患者さんを見送ったあとも、“ケアが終わる”のではなく、“つながりが続いていくもの”と捉えて、グリーフケアを大切にしています。
ご家族のもとには、旅立ちからおおよそ49日、そして1年が経過した頃に、一通のお葉書(グリーフカード)をお届けしています。
「どのように過ごされていますか」
「少しずつ、心も落ち着かれてきましたか?」
そんな思いを込めて、手書きのメッセージカードを送ります。
カードは季節の柄から選び、医師や看護師がそれぞれの言葉で、“あの日々をともに過ごした人”として想いを込めるのです。

お送りしたご家族から、時折お返事をいただくことがあります。
「主人の話を聞いてもらえたことが嬉しかったです」
「さいごの時間を家で過ごせてよかった」
そんな返答の一つひとつが、私たちにとって宝物となります。
お手紙を読みながら今一度、その方やご家族と過ごした日々を思い出し、あの時のケアを振り返ります。率直に言って、自分の無力さを思い起こし胸が苦しくなることもあります。
けれど不思議なことに、その手紙を読み返すたびに「次の方にも、安心してさいごを迎えてほしい」と思えるのです。
ご家族を慰めたり、励ましたりするためのグリーフカード、またはグリーフケアが、私たち医療者のケアにもつながっていることを実感する貴重な機会となっています。

各地の在宅医療の現場でもグリーフカードを送ったことによるさまざまな効果が報告されています。
湘南国際村クリニック(当時=現・衣笠病院附属在宅クリニック)の研究では、患者さんの亡くなった2か月後と1年後にご家族へグリーフカードを送付したところ、約2〜3割から返信があり、「感謝」「当時の思い」「今の生活」「故人との思い出」などが多く含まれていました。((日本プライマリ・ケア連合学会誌 vol.37 no.4より)
また、返信を通して病的悲嘆(深い喪失による強い苦痛)早期に察知できたケースもあり、グリーフカードが「悲しみを見守るセンサー」としての役割を果たすことも明らかになっています。
グリーフカードによって、抱えている悲しみの深さを測ることもできるケースがあるのです。
グリーフカードが重要だと言っても、手紙だけでは伝えきれない思いがあります。
ご家族の声を通じて
「もっと直接話したい」
「同じ経験をした人と出会いたい」
という願いを受け取るたびに、“会える場”をつくりたいという思いが強くなっていきました。
こうして生まれたのが、「まちの保健室」です。
ここでは、ご家族が日常の中で安心して悲しみを語り、思い出を共有できる“いばしょ”を作っています。看護師がそっと寄り添いながら、お茶を飲み、季節の話をし、時には静かに涙を流す場所です。誰かと出会い、話をすることで、言葉にすることさえ難しい想いが少しずつほどけていくように思います。
グリーフカードが「心をつなぐ手紙」なら、まちの保健室は「心をつなぐ居場所」と言えるでしょう。

看取りの瞬間は“終わり”ではありません。“関係が変わるとき”として受け止めています。
カードやサロンを通じて、もう一度ご家族と心がつながることで、悲しみの中にも、あたたかな記憶が残る時間が生まれるのです。
そして、グリーフケアを通して、ご遺族がご自身の“これから”を見つめ直すきっかけになればと願っています。
「自分だったら、どんな最期を迎えたいか」
「そのために、今から何を大切にして生きていくのか」
私たちは、その問いに寄り添う医療をこれからも続けていきます。
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