言葉が届かなくても寄り添うことで伝わる【グリーフカードに込めた想い・第4回】
かわべクリニックでは、看取りが終わった後も「つながりの医療」を大切にしています。
旅立たれる方の人生は、その時点で一つの区切りを迎えます。しかし、残される家族など大切な方々にとってはまだ時間が続きます。別れを経験した悲しいが長く続くケースも決して少なくありません。
いわゆる表面的な「医療」や「ケア」が必要とされなくなっても、ご家族にグリーフカードをお送りすることに、私たちはずっとこだわってきました。

大切な方を亡くされたご家族に宛てて、49日や一年後といった節目のタイミングでお送りしているのがグリーフカードです。
別れや喪失の悲しみは、一定の時間が経過することで自動的に和らぐものではありません。ずっと悲しみと向きあい、時には「もっと何かできることがあったのでは」などと、自身の対応を悔いている方もいるかもしれません。
それでも、私たちもちゃんと覚えていて、近くにいるんですよ。
そんな想いを込めて、医師や看護師が1枚ずつ手書きのカードをお送りするのです。
グリーフケアとは、悲しみの癒しとともに思い返す時間をともにすることなのかもしれません。
そして、すぐにお返事をくださる方もいれば、1年経過してから初めて言葉を返してくださる方もいます。そんなお返事を拝見すると、早い段階から心に寄り添うグリーフケアが大切なのだと、改めて実感します。
Sさんのご家族からは、季節の移り変わりとともに丁寧なお返事を頂きました。
お手紙の文面からは、「最後の時間が穏やかであったことの安心」「寄り添われた記憶が今を支えていること」
が静かに伝わってきます。
Sさんは、重度の認知症があり、ご自身の想いを言葉にすることが難しくなっていました。だからこそ、私たちは表情の変化を見逃さないように努め、小さな仕草や手の緊張、呼吸のリズムといった “ことば以外の声”に耳を傾けるように力を注ぎました。
認知症のケアで本当に必要なのは「伝える言葉」ではなく「受け取ってもらえる安心」です。
つまりこちらの声のトーン、触れる手の温度、そばに座る距離。そのすべてが「ケア」そのものになります。
Sさんの反応によって、私たちにそのことを深く教えてもらえました。私たち医療者だけではありません。何よりも、そばには、いつも支えてくれるご家族がいました。
ご家族にも迷いや不安はあったはずです。言葉のやりとりができないことで、これでいいのかと葛藤や自問自答を繰り返したことでしょう。
それでも、母だから、家族だから、毎日寄り添い続けたのは深い愛情があってこそでした。
Sさんから直接言葉は聞けなくても、ちょっとした仕草や柔らかい表情によって、支えているはずの家族が、励まされることもあります。
認知症ケアは、簡単ではありません。しかし、Sさんのケースは、言葉が伝わらなくても、寄り添いによって想いはたしかに伝わるのだと気づかせてくれた時間です。
Sさんは、きっと、ご家族と私たちが一緒に積み重ねてきた“安心の証”があったからこそ、ささやかでも笑顔を見せてくれたのだと思っています。

グリーフカードは、悲しみを思い出させるための手紙ではなく、“あの時間の温もり”をそっと思い返すための手紙です。
Sさんのご家族のように、看取りの後にも想いを寄せてくださることは、私たちにとっても大きな励ましとなります。
言葉が少なくても、記憶が薄らいでも、人は最後まで想いや愛情を感じることができます。このとき医療の役割は、その感じている世界を、一緒に大切にすることではないでしょうか。
これからもかわべクリニックは、別れの先にも温もりを届けられるように励んで参ります。
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